その時、確かにわたしの頭の芯はぼうっと蕩けていて、目の前の視界はおぼろげだった。

「おーい、ちゃーん」
「・・・・」
「・・・・おいコラ、起きろ」
「んむぅ・・・・・」

 肩を掴まれ前後にゆすぶられて一瞬だけ真っ暗闇だった視界が光を取り戻した。
 首が痛い。何故だかほんわかと温まっている右手を無意識に首元へ当ててうーっと唸る。しばしばと瞬きを繰り返して、わたしは自分の現状を把握しようと停止していた思考回路をゆるゆると動かそうとした。

「オメーなに人の股の間で寝ようとしてやがんだよ」
「ん、あれ・・・・・ゆ、すけ・・・?」

 あぁそうだよ、オレだよオレ。頭上から降りてきた幽助の声。そこでやっとわたしは自分が今、どんな状態であるのか理解した。
 ああ、そうだ。わたし、幽助の家に来ていて、幽助と一緒にこたつに潜りながらテレビを見ていたんだ。それで、わたしは・・・そうか、いつの間にか寝ちゃったのか。
 あらら、寝ちゃった。わたしがそう呟くと幽助は何が寝ちゃっただ、と不機嫌そうに返答した。ちなみに今、わたしと幽助の体制はわたしが幽助の足の間に納まってそのままこたつに入っているという、なんだか親子みたいな微笑ましい体制である。すると、不意にわたしの頭上からごんっという鈍い音が響きじんっという痛みが旋毛辺りから広がった。

「ったぁ・・・!」
「ったく、ふざけんなよちゃんよ」
「な、何すんの!なんで今・・・っ!」
「幽ちゃんからの愛のムチですぅ。久々だっつーのに、オメー呑気に寝やがって・・・」
「しょ、しょうがないじゃん!あ、あんまり暖かいからつい・・・」
「ムードも糞もあったもんじゃねェよバーカ」
「なっ・・・!ふ、普段はそんなん欠片も無いくせに!」
「だぁーから!今日はそうするっつってんの!なのにオメーって奴は・・・」
「う、うるさい!耳元で叫ぶな!」
「大体オメー普通人ん家でぐーすか寝るか!?」
「だってなんか幽助の家って安心するんだもん!しょうがないじゃん!」
「しょうがなくねえ!」

 半身だけこたつに突っ込んで言い争っていたら、次第に疲れてきてしまった。幽助もそれは同じようで、だんだんと頭上から飛んでくる暴言が勢いをなくし、最後にはどちらともなく黙り込んだ。
 沈黙がわたしと幽助の間を渦巻いて、わたしはすぐに後悔に苛まれる。BGMはテレビの中の音声で、それは鼓膜をやんわりと叩いていくけれどこの空気を解してくれることはなかった。ああ、もうやってしまった。こんな言い争いをするために幽助の家にわざわざ来たわけじゃない。最近、お互い会う回数も少なかったし、久々に幽助とこうゆっくり過ごしたいなぁと思ってやってきたのだ。しかし、これじゃああんまりじゃないか。
 自分の膝を身体に引き寄せて膝小僧に顎を乗せる。幽助は何にも言わない。それはわたしも一緒なんだけど、沈黙があまりにも痛くわたしは逃げるように顎だけではなく顔まで自分の膝小僧に押し付けた。

「・・・・

 名前を呼ばれる。けれど顔を上げる気にはならない。わたしはそのまま自分の膝小僧に顔面を押し付け続ける。あんまり押し付けてしまったので、そろそろ鼻の先が悲鳴を上げてきた。でもやっぱりわたしは続ける。
 幽助がこたつ布団の中に突っ込んでいた両手をわたしの少しだけ開いている腹と腿の間に滑り込ませてきた。がっしりと力強い腕に引き寄せられて、ただでさえ密着していたというのに自分の背中と幽助の胸板がぴったりとくっついた。

、おい」

 あの低い声が頭上からではなく物凄く間近から聞こえてきて、そこでわたしはハッとして顔を上げた。肩にはわずかに重みがある。幽助の匂い。視線を少しだけ横にずらせば幽助がわたしの肩に顎を乗せていて、再びあの酔ってしまうような錯覚のある甘く低い声で直接鼓膜に囁いた。

「しよーぜ」
「え、」

 いつもよりやわらかい、しかも先ほどとは正反対の言動に戸惑い、疑問の声が口から漏れた。しかし、幽助はあまり気にした風もなくその唇でわたしの耳朶に噛み付いた。あ、っと声が出る。甘噛みを繰り返しつつ、耳の裏を舌で舐めあげられて背筋にぞくっとしたものが走った。幽助の手は既にわたしの洋服の下に潜り込んでいる。下着を上からやんわりと触られて、身体が若干ピクリと揺れた。

「ま、待って、ゆ、すけ・・・、」
「お前オレを殺す気か?どんだけ我慢したと思ってんだよ」
「い、や、す、するのは・・・・いーけど・・・・・こ、こんなところじゃ・・・」
「ンなもん気にすんなよ。汚れたら掃除すりゃいーだろ」
「そ、そんな・・・っ」

 わたしがさらに抗議の声を上げようとすれば、幽助は手馴れた手つきでブラを下げ、胸の突起を優しく摘んだ。瞬間、喉まで出かけていた言葉がひゅっと戻ってしまいかわりに出たのは卑猥で切ない声。もう何度も幽助の手で出されてきた声だけれど、未だに自分でこんな声を出していると思うと死にたくなるほど恥ずかしく思う。そんなこと、幽助が知るわけもなく、幽助はその大きな手で包むようにわたしの胸を揉んだ。
 幽助の唇は耳から頬、そして首に移行して今はまるで吸血鬼のように首筋に軽く歯を立て赤い跡を残している。噛んでは其処を撫でるように舐め、その度にわたしの体温は上昇していった。半身はこたつの中だというのに、季節は冬だというのに、何故こんなにも暑いのか、おかしい。

「あっ、ゆ、ゆすけ・・・っ」
「もう待っては聞かねーぞ」
「ん、ぁぅ・・・ん、で、も、んっ・・・も、もう・・・ちょ、ゆっく、り、ぁ」
「だから無理だっつってんだろ。オレ、本当に余裕ねーから、今日は」

 ずーっと溜まってたんだからな。ボソッと聞こえてきた幽助の声は、確かに僅かながら余裕がないように聞こえる。けれどわたしだってそんなのは同じだ。今日どころかいつもこうして幽助とするときは余裕なんて無に等しい。
 胸を撫でていた幽助の片手が足の上にあるスカートを肌蹴させ太股を伝って下着に辿りついた。自分でも既に十分そこが濡れているのがわかる。その潤んだそこを幽助の指が布を通り越して、下着の間から入り込んできた。直にその潤みに突っ込んできた幽助の人差し指は掻き混ぜるようにわたしの中で動く。最も敏感な場所であるだけに漏れる喘ぎ声も一層高いものになってしまった。

「あ、あっ、ゆう、すけ、あぁっ」
「…すっげー濡れてるんですけど。お前もよっぽど溜まってたんじゃねーの?」
「そ、んなっ、ん、こといわない、で、んんっ、ぁ」
「んなこと言ったってよォちゃーん、オレの指に超吸い付いてくるぜ、お前の此処」
「あ、ひっ、ぁ、あっ、ゆ、け、んッ」

 幽助の言うとおり、わたしの恥部は幽助の指を欲しがるように濃縮を繰り返し吸い付いていた。もっと欲しいと身体が求めているのか、幽助が新たに差し込んだ二本目の指もあっという間に奥へと誘ってしまう。
 こりゃもう、4本いっても平気なんじゃねーの?幽助がくつくつと喉で笑いつつそう呟いて、一気に二本追加してきた。あまりの衝撃に無意識に両手で掴んでいた幽助の黒い洋服をぎゅっと握りこむ。吐き出すように呼吸をして、下腹部で波紋のように広がる快感に耐えた。もうわたしの格好は相当幽助の手によって着崩され、胸は露になり今のところ見えはしないがこたつ布団の下に埋まっている足はスカートからはみ出ているだろう。
 バラバラに動かされている幽助の指をわたしのそこは貪欲に貪って咥えこんでいる。ぐちゅっという水音も微かに聞こえてきた。しかし、絶頂へ到達するにはあまりにもその快感は淡すぎる。もう限界だ。

「幽助っ、ンッ、ぁ」

 わたしは精一杯の力で声を振り絞る。はぁっと大きく息を吐いて、それでもなお、与えられる快感に眠気が吹っ飛んで正常に動いていたはずの思考が再びとろとろと溶け出した。また頭がぼうっとしてきた。

「ゆ、すけ、幽助っ」
「なんだよ、っ」
「も、だめ・・・ゆう、すけの、ほしっ」
「っ、わかってるっつーの、」

 オレも限界。幽助がわたしの中に入れていた指をくちゅっと引き抜いた。何も咥えるものがなくなった恥部は寂しそうにきゅっと縮こまり、飽きずに快感を求めて疼いている。肩で息をしながらわたしは畳みの上に手を突いて身体を自力で反転させた。
 幽助はわたしの腰を掴み、わたしは幽助の膨張しているそこを求めて幽助のズボンのベルトをもどかしげに手で外し、幽助のズボンをトランクスと一緒に下ろした。外気に触れた幽助のそれは大きくなっている。わたしのそこは幽助のを目にした瞬間、物ほしげに疼きを激しくさせたような気がした。

「いれんぞ」
「う、ん、っ」

 幽助の声と共に掴まれていたわたしの腰はぐっと下へ引き寄せられ、幽助のそれを受け入れた。しかし、大きすぎる幽助のそれにぎちぎちとわたしの恥部が悲鳴を上げる。今までに無い圧迫感が下から突き上げられるように腹部を襲ってきた。けれども快感も今までに無いものでわたしのそこは徐々に幽助を飲み込み、やがて幽助の根元まで咥え込んだ。
 幽助が一度わたしの背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。わたしは幽助の首に腕を回してそれに応える。すると幽助が、と名前を呼ぶので幽助の髪に埋めていた顔をちょっとだけずらすと、幽助の顔が近づいてきて唇を重ねた。幽助の舌がわたしの唇に割って入ってきたのを合図にわたしからも舌を絡める。唾液が混ざり合いくちゅくちゅとした厭らしい水音が響いた。何度か唇を重ねてから、動くぜと幽助が呟き、わたしは頷いた。
 ゆっくりと動き出した幽助の口からはわたしと同じように荒い息遣いが漏れている。こたつに入っていた時に身体に溜まっていた熱と、行為によって作り出された熱と、お互いから伝わってくる熱でわたしの肌にも幽助の肌にも汗が滲んでいた。わたしたちの身に纏っていたはずの洋服がぐちゃぐちゃになってしまっている。おまけにわたしの体液とこれから出されるであろう幽助のそれとわたしたちの汗でもっともっと汚れていくに違いない。けれど、そんなこと今さらどうだっていい。
 目の前がちかちかとしてきて、出ている喘ぎ声は拍車がかかったように一際大きくなった。突き上げては出て、再び突き上げる幽助のそれをわたしのそこは締め付けて体液をどろどろと出す。絶頂が近い。そう直感したとき、

「あっ、ああっ・・・!」

 幽助のそれがわたしの中で弾けた。



 皺くちゃで汗まみれの服を着崩した上、露出した肌により半裸と化した身体。二人とも足だけをこたつの中に突っ込んで幽助は畳みの上に仰向けで倒れこんで、わたしはその上で横たわっていた。

「幽、助・・・・」
「なんだよ・・・・」
「おかしい、冬なのに、あつい・・・」
「だな・・・」
「めちゃくちゃつかれた・・・・」

 ぼそぼそと零すように言葉を吐き出して幽助のいまだ露になっていない胸板に頬を乗せた。それでも服は汗を含んでじっとりと湿っている。こたつに入ったままこんなことをするとこんなにも暑いのか。おかしな発見にわたしは溜息に近い息を盛大に漏らして、それから浅い呼吸を繰り返した。

・・・」
「なに・・・」
「もっかい」
「え、ちょ」

 驚いて身を起こし嘘、と呟こうとした唇は素早くわたしと同じように身を起こした幽助によって塞がれた。一度は熱を放出したはずの自分の其処が疼きだしたのを感じる。体温が混ざり合うように絡まった舌から溶け出していく熱に酔いしれながら、わたしは諦めて瞼を下ろし幽助の熱に身をまかせた。
 熱すぎる体温は上昇を続けて、わたしの身体は幽助に溶けていった。





花を抱えて眠る竜  20091007