けたたましい音がするのかと思っていたら、それは意外に空気に溶け込んで最終的には消えていったので、は自分の命も案外容易く絶たれるんだろうと考えていた。代わりに聞こえた悲鳴は被害者ではなく、加害者の運転する車が発したブレーキの叫び。キキィーッドン!車が走り去った後も猫はぴくりとも反応を見せずに横たわったままだ。周囲に人はいないようで、別の角度からその現場に立ち会ってしまったことに戸惑いよりも驚きのほうが勝る。止まる足取りと共に思い浮かぶのは、動物の事故死に直面した際、可哀想などと同情すればその動物の魂が成仏できないという日本特有の言い伝えだった。けれど、にはそれが正しいのかどうか今すぐ知る術はない。自分が身を持って同情し、目の前の猫の魂に取り憑かれでもしない限り無理な話だ。はそんな馬鹿げた迷信を切り捨てるようにかぶりを振ると、道路の真ん中にぽつんと用意されているように動かなくなったその猫に駆け寄って、いっそ取り憑かれてみるのもいいかも知れないと自嘲した。仮に取り憑かれたとしても、それは自分の役目ではなく本来あのグレーのワゴンを運転していた加害者だろうと言い返せる自信があったので、は遠慮もせずにその猫を持ち上げて抱えると、可哀想に。そう呟いて近くにあった茂みへ足を踏み入れた。元々猫は嫌いじゃない。