「ねぇ、雷禅さん」
「なんだ」
「今日、わたしの誕生日だって知ってる?」
「へー」
「うん。そこで提案なんだけど」
「あ?」
「今日、わたしのお願いをひとつ聞いてみるっていうのはどうでしょう」
「遠慮する」
「いえ、そんな事言わずに。せっかくなので」
「何がせっかくだ。ふざけんな」
「至って本気なんですけど」
「……あのな」
「え?何なに?気が変わった?」
「言ってねーだろ、ンな事」
「いいじゃない。年に一度の無礼講!」
「おまえな、無礼講の意味わかって言ってんのか」
「なんとなく?」
「…………もういい。お前に付き合ってるとこっちまで馬鹿んなる。
 さっさとその願いだかなんだか言って、大人しくしとけ。聞くだけ聞いてやる」
「あ!お願い聞いてくれるんだ!嬉しい!」
「意味を取り違えんな。日常会話すらできねーのか、おまえは。話を聞くだけだ」
「はいはい。でね、実はね」
「…てめぇ……ワザとやってんだろ」
「いいからいいから。細かい事は気にしない!でね。その、あの」
「なんだ」
「お願い、なんだけど」
「だからなんだ」
「雷禅さんに、言って欲しいなーって」
「(………すげえ嫌な予感……悪寒?)……何を」
「愛の言葉」
「死ね」
「だーかーらーっ!そうじゃなくて!」
「そうだろうが」
「違うでしょ?それじゃいつもと同じなの!今日は、ちゃんと言って欲しいの!」
「くだらねぇ。オレにそんなモン期待するだけ無駄だ」
「いいじゃん、減るものでもないし」
「減る」
「嘘だ!」
「うるせぇな、オレが減るっつったら、減るんだよ。第一、ンな事聞いてどーすんだ」
「乙女なら誰もが抱く願望です」
「誰が乙女だ、バカ女」
「だって、好きな人の口から聞く愛の言葉って、どんな感じなのかなーって」
「軽々しく口にするようなモンなのか、それは」
「そんなの詭弁です!口に出さなきゃ伝わらない事だってあると思う」
「言わなきゃわかんねぇのは、てめぇがバカな所為だろ」
「わからないわけじゃないもん……そりゃあ、雷禅さんの目とか指先は、
 言葉なんかより雄弁だし、むしろ饒舌だと思うけど」
「それだけわかってて、何が不満なんだ」
「眼に見えるものだけが全てじゃないって思うから。別に、好きだとか愛してるだとか
 言って欲しいわけじゃないよ?聞いてみたいの。雷禅さんの気持ちを、雷禅さんの言葉で」
「必要がねぇ。却下」
「ひどっ!勇気出して聞いたのに!365日毎日言って、なんて言ってないのにーっ」
「言葉なんて頼りねぇモンに託せるほど、チャチじゃねぇんだよ」
「……今、なんて?」
「知るか」
「知るか、って。今、雷禅さんが言った言葉じゃない!」
「忘れたな」
「思い出して!お願い!」
「おい…そこまでムキになる事か?」
「ムキにもなるよ!だって今、すんごい愛の言葉言ったでしょ?!」
「そうだったかな」
「そうだったよ!」
「なら、いいじゃねぇか」
「え?」
「願い事。ひとつだけ、だったな
「う」
「まさか、聞き逃したとか言うんじゃねぇだろうな」
「…き、聞き慣れない言葉だったので、つい、耳を素通りしたらしく……」
「ほぅ」
「……スミマセン、リピートお願いします」
「断る」
「そこを何とか!」
「また来年だな」
「待てないよーっ!!」
「なら忘れろ」
「無理だって!!責任取ってよ!」
「ったく、つくづくうるせぇ女だな、てめぇは」
「…んっ?!……んん……っ」
「ぐだぐだ言うのは性に合わねぇ」
「いきなり何を……っていうか。あのー、雷禅様?その手はナンですか、何脱がしてんですか」
「黙れ」
「あの、ここ、屋外なんですけど。しかも真昼間」
「だったらどうした」
「どうしたじゃなくて」
「オレには関係ねぇな」
「わたしには関係あるってばーッ!!」  




お誕生日、おめでとう?







その熱で困らせて (雷禅リクエストくださったお姉さま方、ありがとうございます! 2009/11/19)