混沌とした世界を色で例えた。鈍色。黒にも白にもなれない半端者。係わり合いになりたくないと首を振るほど、 自分が染まっているのがわかった。布に包まって眠るの、どこか年相応さを失った寝顔にくっと喉で笑う。その様子に反応した蔵馬が背後からを一瞥すると、何かに対する哀れみのため息が漏れているようだった。屈んだ体制を立て直すと蔵馬は何も言わずに オレの隣に立った。オレはその対象を知っていて気付かぬフリをしながら窓の外を見やる。
 肌蹴そうな布を肩までかけなおすは餓鬼のように無邪気なままで、いつかオレを抉って消し炭にでもしてしまうんだろう。酷く晴れた空が 憎いほど澄み切って、このまま空に沈んでしまえたらいいと思った。

「飛影」
「なんだ」

 用もないのに呼ばれた名前は役立たずの代名詞にさえ聞こえる。中身のない返事をすると、視界の端に映る蔵馬も同様に 空を見つめているのが見て取れた。視線を混じえようともせず淡々と流れる雲を見つめながら、オレと蔵馬は空白で 会話をしているようだった。後ろではごそごそと寝返りを打つの寝言が響いて、まるで空間はくり抜かれている。その存在を意識した瞬間、たちまちの香りが鼻をくすぐって、部屋中に飛散したようにさえ感じられた。
 蔵馬は突然「笑っているようで先程から貴方は一度も笑っていないですよ」と知った風に言葉を紡いだ。 言っていることの半分も理解しないうちにそれが否定であるとわかると、オレは小さく舌打ちをしてお前に何がわかると 反論する。まるで低脳な生き物だと頭の片隅で過ぎるけど、今はそんなことどうだってよかった。
 そうだ、オレは一度も笑ってなどいない。それはオレ自身がを前に笑おうとさえ思っていないからだ。くっくと何がおかしいのか自分でもわからなかったが、 喉元だけで笑みを浮かべる。虚しさが駆け巡って不気味な感覚が言葉を生み出す。

「オレのものじゃないこいつなんか死ねばいい」

 誰にわかっただろう。うなじに赤い花を咲かせた無防備なを前に、いつもどおりを装ってつんと首を突いたオレの虚ろさ。悪気のないあいつはその意味に気付くことなく 普段どおりにわらっていた。何するのよ飛影。そう言葉を続けていたかもしれないし、オレの勝手な幻聴かも知れない。 誰に付けられたんだと見苦しく縋りつければどんなに楽だろう。その首をへし折って永遠に隣に置けるなら、それに越したことは ない。呟いた駄々で変わるはずもない空気。流れる雲の速さも、外の穏やかな風も。何一つ凍りつかせるようなことも できず、ただ泥になって溢れていく。オレの言葉の程度など高が知れている。

「冗談だ」

 その一言がなんともお似合いで滑稽だった。蔵馬は何も言わずに空を仰いでいる。地平線の向こうに見える雲は 同じ高さにいるような錯覚を覚えさせる。後ろで眠るが目覚めるより早くオレは消えよう。二度とこんな想いを抱えないで済む場所を探して。



孤独の御面