茹だるような夏の日差しにしてやられそうだったので、それでも突き進んだままわたしの腕を離さない飛影にとりあえず わたしの家に行こうと提案を出した。すると何も言わない飛影がくるりと踵を返す。突然立ち止まった彼の胸に ぶつかるようにつんのめると、表情一つ変えずに飛影はわたしを力いっぱい抱きしめた。その強さに眩暈がしそうなほどの 愛を感じる。ねえ飛影、もしかして飛影も、同じ気持ちでいてくれた?


「飛、影…」
「……」


返事の代わりに背中に回された腕に力が入るのがわかると、こんなにも堂々と素直な感情をぶつける飛影は珍しいと思った。 わたしは込められる精一杯の力で飛影に応えるけど、彼には到底敵いそうにない。耳元から聞こえる飛影の吐息がいとおしい。 どれくらいそうしていたのか、わたしたちはどちらからともなく身体を離す。一瞬だけ見下すような彼の視線がかち合って、 素直な心臓がドキリとはねるのがわかった。すると、間髪入れずに飛影がわたしの腕を掴んで再び歩き出す。 わたしの提案は無事承諾されたようで、見慣れた帰路にホッと胸を撫で下ろしつつ、飛影に引っ張られるようにその後を歩いた。













「あ、…んっ!」


ぎしりとベッドが軋んだ音を立てる。ほとんど投げ出されるように放り込まれた。 けれどやわらかい布団の上で怪我なんかするはずもない。そもそも飛影がわたしに怪我をさせる姿なんて想像ができない。 彼はいつも身を呈してわたしを守ってくれる。その姿は王子様というより、漆黒の騎士といった方が合っている。それでも、 耐えられない衝動をぶつけるような目の前の飛影が普段の彼と違うことは、その沈黙が充分に物語っていた。飛影。 そう名前を呼んでも、彼は何も紡がないままだ。慣れた手つきでコートを脱ぐと、飛影は着ていた洋服も床に脱ぎ捨てて わたしを一瞥した。引き締まった身体。熱っぽい視線に、トクントクンと高鳴る鼓動がうらめしい。まだ怒っているのだろうか、 飛影はベッドに乗ると、膝立ちのままわたしに近付いた。


「ど、したの…ひえ、い…」
「…」
「あ、の…まだ怒、って……んっ」


荒っぽいくちづけ。自分でも情けないくらいの声音で訊ねた言葉は空を切り、代わりに飛影のくちびるに塞がれた。 ぬるりと湿った舌が口内に入って、わたしをほんろうする。何も考えられなくする。驚いたわたしがやり場のない両手で 飛影の腕を掴んだ。前のめるようにぴんと張った飛影の両腕。たくさん舐めたり焦らすように舌を動かしながら、飛影は 器用にわたしの両手を剥がして、頭の上でそれを一括りにまとめた。まとめる飛影の手は片方だけなのに、わたしの両手は全然身動きが取れなくなる。


…」


そのとき初めて呼ばれた名前に、わたしの全身がカァッと熱を帯びた。飛影。飛影。角度を変えてキスをする飛影の名前を 何度も呼び返す。両手を後ろに引っ張られそのまま押し倒されると、なんの躊躇いもなく洋服の隙間に入り込んだ飛影の片手が 下着のホックを外した。締め付けから解放された胸がふるりと震える。飛影は細長い指でそっとその先端を弾いたり、 くりくりとつまんだり弄びながらも、舌でわたしの下唇を舐め上げたり、わざとらしい動きを休めることはない。


「んぅ…、ふ、ぁっ…!」



すでに唾液が流れるくちびるの端からは、ふぁ、ん、あぁっと声にはならない声が漏れていて、それを止めることも出来ない。 その様子に、ようやく離れた飛影のくちびるが今度はにやりと口角を上げる。意地悪をされていることにようやく気付くけど、 わたしの熱はきっと収まってくれるはずもない。何より、わたしは飛影に意地悪されるのだって大好きだから、抑える必要も なかった。飛影もそれをわかっているから、焦らすような手の動きが反論を許してくれない。


「ひ、えっ…あぁ!んっ、ひぁっ」
「感じてるのか」
「ち、がう…や、あっ!飛影っ、らめっ、ん」
「何がダメなんだ」


くくっと喉で笑っているのがわかって、わたしは羞恥でいっぱいになった。言いながらくいっと乳首を抓まれて身体が のけぞる。満足そうに笑う飛影。少しだけ汗ばんだ額が、部屋の暑さ以上に二人の熱を認識させる。意地悪なのに、飛影の わらう顔がどこかやさしい。それだけで下腹部のあたりがきゅんとなるのがわかって、わたしはぼやける視線のまま飛影を見つめていた。


「ひ、え…」
「どうした?」


わたしの言葉の続きなんか気にしていないとでもいうように飛影はそっと起き上がると、わたしの膝を割って開いた。 強い力に抵抗できるはずもなく、飛影の指が穿いていたスカートの中にそっと入り込むと、下着の上から中心をなぞる。


「やっ、だめだよ!ひぁっ」
「ヤラしいな…」
「んっ、待っ、ひ、えい」


なんの意味も成さなくなった下着を下げると、飛影が静かにその部分に顔を埋めた。ふっと熱い吐息をかけられる。それだけで わたしの身体はびくりと震えてどうにかなってしまいそうだった。次の瞬間、ぬるりという感触で頭が真っ白になる。 飛影が舌でそこを舐めあげたのだ。それはまるで別の生き物みたいに動くのをやめない。割れ目を上下にすくうように舌で舐められて、そのたびに じゅる、ぐちゅ、といういやらしい音を上げる。


「あっ!やだ、舐めちゃ、やだぁっ!」
「……」
「だめだよ飛影っ!ふ、ぁんっ!」


ヒクヒクとヒクつくのがわかって、そのたびに飛影の舌が強弱を使い分けて焦らす。恥ずかしさで目を瞑ると、今度は じゅるると思いきりすするような音が響いて身体中を刺激する。果物をかぶりつくようにしゃぶりつく飛影の舌に、 思わず高い声が出てしまう。


「あん、ひ、え…っ!ひやぁあっ」


割れ目の上にある突起まで舌で突かれて、わたしの背中が痺れるような感覚に陥った。だめだめだめ!気持ちいい…! すると、わたしの様子に気付いた飛影は空いている手で胸も弄り始めた。強く強く吸い上げる飛影の舌の温かさと、 指の動きに耐え切れず、わたしは身体を強張らせてそのままイってしまった。


「ひっ、あっうぅ…!も、だめっ!」


飛影の頭を自分のそこに押し付けるように掴んでしまって、けれどそんなことどうだってよかった。 達したわたしに気付いた飛影は満足そうにくちびるの端を上げると、見せつけるように下唇を舐め上げた。うっとりするほど 綺麗なその仕草に、はぁはぁと息も絶え絶えに見惚れていると、ふいに膝立ちになった飛影が自分のベルトをかちゃりと 外していく。飛影の熱く猛ったそれにわたしの身体がまた疼くのがわかった。まだ足りない、そう言っているみたいに。 するとわたしの脚を押し上げて広げるながら飛影が自らをあてがう。自分の格好に目を瞑りたいのに、直前で飛影と目が合って、 それを咎められる。


「ちゃんと見ておけ、がオレを飲み込むところをな」
「んっ、あ、ぁんっ!!」


言いながら飛影は見せつけるようにゆっくりと先っぽを入れ始めた。すぐにじゅぷという音がして、ずぷずぷと飛影のそれが わたしの中に入っていく。舌とは違う、重たくて引き裂くような気持ちのいい感覚。飛影がゆっくりと腰を動かすと、 言い表せないくらい気持ちのいい波が押し寄せては引き返し、押し寄せては引き返しを繰り返す。二週間ぶりに繋がる彼自身は とても熱を帯びている。飛影はいつものように強くは腰を打ち付けず、わたしが焦れる様子を楽しむように、ゆっくりと 抜き差しするばかりだった。


「ふ、んぁ……飛、影っ…」
「どうした」
「あっ、やぁっ、…うっ」


もっと強く。そう望んでいるのは飛影だって同じなのに。この二週間の鬱憤を晴らすような飛影の意地悪に涙が出そうだった。 飛影は抱え込むようにしていたわたしの膝を離すと、乗りかかるようにわたしの顔を覗き込んだ。 その表情一つさえいとしくてたまらない。わたしは目の前で、わたしをこんな気持ちにさせる飛影が大好きで仕方ない。 潤みそうになるのを必死に堪えて飛影を見つめる。飛影の額からはらりと汗が落ちた。


「ひ、え…っ、んっ」
「…くっ」
「すき…」


そういって笑うと、同時に涙が零れ落ちる。精一杯わらったつもりだったのに、これじゃあ泣いているのかはっきりしない。 すると飛影の両肩に手を置いたと同時に一定のリズムで腰を打ち付けていた飛影が突然止まってしまった。 わたしはぽかんとその様子を見上げていると、すぐにわたしの中で飛影が一層猛りを増したのがわかった。内壁をくすぐる飛影のそれに肩を竦める。 目を開けた瞬間、飛影がこの上なくやさしい顔でわたしを見つめているのがわかった。困ったような表情。滴る汗が 色っぽくて、ちゅっとついばむようにくちびるが触れる。と少し掠れた声が、わたしの名を呼ぶ。


「オレもだ」


そういってわたしの前髪を掻き分けてくれる。汗で張り付いたわたしの髪を愛しそうに除けながら、飛影は少しずつ腰を 動かし始めた。ふぁっ!ぁあっ!と突然のことに声を上げると、飛影がまた嬉しそうにわらった。飛影、飛影、飛影。 出たり入ったりを繰り返す飛影とわたしを繋ぐ場所からは、もうだいぶぐちゃぐちゃと水音と泡が立っている。飛影は喉だけで 呻くようにしながら、わたしの中でそのすべてを放った。













「…ん、飛影、…ふふっ、くすぐったい!」
「黙れ」


いっぱいいっぱい気持ちを確かめ合った後なのに、彼はまだ足りないと言うようにわたしのあちこちにキスを落としていく。 それは触れるだけだったり、きつく吸い上げたりと様々で、会えなかった二週間分の物足りなさを満たしていくみたいだった。 くすぐったいと文句を言えば、飛影は表情ひとつ変えないまま目を閉じて、色々な場所へと自分の証を刻んでいった。


「飛影、そこ、だめっ!」


洋服を着ても隠し切れない首元にまで赤い花を咲かせる彼に反論の声は空しく響くだけだ。これからさらに暑さが 続くだろう毎日に、さすがにタートルネックを着るわけにもいかないのに。そんなわたしに気付いた飛影はいつもどおりの 意地悪な笑みを浮かべて、ふんと鼻で笑った。蔵馬あたりにバレたらからかわれるに違いない。けれど、普段なら沈みそうな考えも、 なぜだか今日はわたしを嬉々とさせる以外の何物でもない。飛影のキスにされるがまま、これが彼の本心であることが嬉しかった。 言葉に出さずとも、やっぱり飛影も会えない時間を同じ想いでいてくれたんだろう。








between. 2009/05/10