とてもとてもだいすきで仕方がなくて、愛が強いから貫けると思う。なんだって。
彼はいつも満月の日に来る。


「飛影」


カタ、と本当に耳を澄ましていないと聞こえないくらいの物音がベランダからする。
満月の日はいつも、耳を澄ます。彼の足音はほぼ無音に近くて、気配も皆無に等しい。
それでもわたしはその小さな音を、気配を、微かだが拾うことができて我ながら感心してしまう。
もしかしたらわたしの聴力は、飛影のために存在しているのかも知れない。
そう思ったらおかしくて、小さく笑いながらカラカラとベランダの戸を開けると、
何がおかしいと言わんばかりの彼がそこにいた。背中にはとても大きな満月を背負って。


「いらっしゃい」
「何がおかしい」
「え、あ、ううん」


どうぞ、と部屋へ招き入れれば、何も言わずソファに腰掛ける飛影。
つまらなそうな、いつもどおりポーカーフェイスな彼を追いかけるように
その向かい側に座ると逆光で少し眩しかった。飛影の後ろにあるベランダから
ほんとにきれいな空が覗いていた。


「ひえ」


い、と言い切る前に、彼の手がテーブルを超えてわたしの後頭を優しく包む。
大きい月だねと伝えようとした口がぱくぱくとしたまま、その上から飛影の
冷たい唇がゆっくりとのせられた。あま い 


「んっ、飛影‥っ」
「」


すべてを知っているみたいに甘くなぞられて、まるで力が入らない。
ねえ飛影、わたし すごくすごく






































「逢いたかった」



「え、」
「黙れ」


そう告げたのは 果たして。



( だってほら、耳を澄ますのは わたしの )  20070609