わたしだってなにも、顔を見るのがいやになるほど嫌いなやつのところにいるわけじゃないのに。ここ最近そう感じるようになった 自分に気がつくと、ちちち違うちがう!と思いきり首を振るのが習慣になっていた。わたしひとりバカみたいな様が きっと彼には滑稽に映って、今以上のもやもやした感情を与えてくるに違いない。そう思うと腹立たしくてむなしい。 確信のない悩みほど疲れるものはないんだ。相手にしてとか寂しいんだとか、そんなこと言ったって状況は変わりはしないのに。 これじゃあまるでクロロさんの思い通りみたいで悔しかった。出逢ったばかりの頃の威勢は、愛という名に変わって 脆弱になりつつある。

「フィンクス、さん」
「ん?おーなんだ。どした?」
「…クロロさんてモテるんですか?」
「…は?団長?」

缶ビールを片手にテレビを見つめるフィンクスさんに話しかけると、気軽そうにこちらを振り返ってくれた。 幻影旅団と呼ばれる盗賊さんらしいけど、普段は争いも何もむしろ平和を尊んでいるんじゃないかと思うくらい、 日常は平凡だった。この雰囲気も、すごくすきになりつつある。(それじゃだめなのに!)ソファにかける フィンクスさんと、フェイタンさん、パクノダさん。むこうではクロロさんを筆頭に、他のメンバーがなにやら 楽しげに話しこんでいる。大人なのにこどもみたいな表情をされると、わたしの素直でうらめしい心臓が早鐘を打つように高鳴った。

「すげーモテんよな」
「ええ!?」
「そうね。は素っ気ないけど、団長男前だし」
「ワタシたちまとめるくらいの強さもあるね」
「昔からナンパとか行くと全部持ってかれるもんな」
「な、なんぱ、ですか!?」
「そうそう。全然そういうのすきじゃないんだけど」
「阿呆な女たちどんどんついてくるよ」
「そ、そうなんですかー…」

うわぁー!!聞きたくなかったそんなの!!さっきよりもやもやしてきたよ…!その、や、やっぱり、なんぱっていう、のは、 男の人が女の人に声をかけに行くんであって、(逆もあるんだろうけど…)気に入ったおんなのひとを口説いたり、 ほ、ほんきですきになったりすることもあったんだろう、か。クロロさんは今26歳だから、20歳前とかは、そりゃだって 健全な男の人なわけで、恋とか、そういうこともあったんだろうなぁ…。もやもやもやもやと、見えない何かが心臓の あたりをぐぐっておおった。これがなにか、たぶんわかっているのに気付かないふりをして、でもとても苦しい。

「ひょとして団長のことす」
「べっべべべ別にそういうんじゃありませんよー!どうぞテレビの続きをおたのしみください」
「嘘が下手にも程があるだろ」
「可愛いわね。団長あなたのことすごく大切に思ってるのよ?」
「わわ、わかってま、すでも!あいやうそじゃないですよやめてくださいっ!!」

一体いつまでこんな風に意地をはり続けているつもりだろう。わかってるくせに。わかってるくせに。 イタズラな3人のせいで顔があっという間に真っ赤になると、すぐにうれしそうに微笑んでごめんごめんと頭を撫でられた。 (ひーん!)はずかし過ぎてこの場を離れたい。のに、すこしむこうで仲間とわらうクロロさんを見ていたいとさえ 思ってしまう。これはもう、もしかしたら相当末期なんじゃないかと思った。やさしくわらう3人の顔が、 まるでクロロさんのしあわせを願っているように見えて、そう思われる彼はやっぱり信頼されているんだと思わせる。 自惚れるわけじゃないけど、もしもわたしが3人もほかのみんなも、そしてなによりクロロさんをこんな風に 笑わせつづけられるなら、ものすごくすてきなことだと、思うんだ。それは同時にわたしのしあわせにもつながることに、 だいぶ前から気付いていたくせに、認めないでいた。クロロさんはやさしい。頼りになるし、頭もいい。外見だって男前だし、 とっても個性的なみなさんをまとめるほどの力も備わっているすごい人なんだろう。でも、じゃあなんでわたしなんだろうって、 不思議に思うのは変だろうか。もしかしてこんなわたしに理想を抱いていつか幻滅したり、他の人をすきになったり。 そんな不安が…

ああもう。わたし、すごい彼がすきなんだ。

「ふぇっ、…」
「な!?お、おい!?」
「なぜ泣くか」
「ちょっと、大丈夫!?ごめんわたしたちちょっとからかい過ぎたわね」
「ご、ごめなさ、…ちがっ 「誰だを泣かせたの」

泣かすなよ。そう低く響く声がして、後ろから頭を撫でられた。優しい温かさにほっとしたのもつかの間、 すぐにそれが誰なのかわかって、わたしは思わず固まってしまう。いつもいつもかっこいいタイミングで現れて、 わたしの中に自然と入ってくるんだ、彼は。

、おいで」

ほんとに溶けそうになるこの声は、まるで手招きをしているみたいだった。わたしがまごついていたらクロロさんが苦笑しながら 顔をのぞきこむ。いつもは幾分高い彼と同じ視線で見つめられるとまたちがうドキドキが襲ってきて、再びわたしの顔は赤くなった。 哀しくて泣いていたわけじゃないのに、こぼれた涙を掬い取るようにまぶたにキスを落とす。触れたくちびるが熱くてやさしくて、 彼はいろんなものでわたしを溶かしてしまうんだと思った。どうしようもなく落ち着くのはどうしてなんだろう。目を開いたら、 ぎゅって抱き締めたままクロロさんが3人を問いただす。

「で、どうして泣かせるかな」
「ちげーよ団長!!が団長のこと聞いてくるから、俺らはそれに答えただけだ!!」
「でもちょとからかい過ぎたね」
「ごめんね!わたしたちだって団長とにしあわせになって欲しくてつい」
「へー。俺の何を聞きだそうとしたの?」


「「「団長はモテるのか」」」


「…ふーん」
「え、あ、やっ、ちがっ!!」

クロロさんに抱き締められたまま、しどろもどろになったわたしに違わないと3人が首を振った。ちがわない、けど、でも! 意味深な表情のクロロさんがわたしを見下ろして何か考えている。うれしそうにも見えるその顔が、かっこいいのだけど、 すごく悔しい。わたしが違う!と大きな声を上げてみても、すでに彼の思うつぼだった。


「とりあえず、妬いてたんだ?」
「〜っ!ちちちがいますぜんぜん!!」
「わかりやすいな。かわいい」
「!!!?」





Mellow!!






Mellow!!






Mellow!!





触らぬ神に祟りなし 俺とを邪魔する奴は(なんなら 殺 し て みせようか?)