「どうして僕以外の人に触らせたんですか」
 「ふっ、ぅう…んっ…!」

 表情は切な気げなのに、声音は酷く落胆してる。訊ね方は疑問形のようで言い切った口調だ。
 何度も何度も首筋に吸い付かれ、あちこち鬱血が酷い。どうして。その問いの最善を伝えようと頭を働かせようとしても、意識がほとんど向いてくれない。

 「お、っ、おんな、の、こ…っ、だ、から…」
 「男だったら殺してますよ」

 乙骨くんは一瞬で表情に影を落とす。そんなことは大前提だと。
 何が乙骨くんの地雷だったんだっけ。どこを怒られているんだっけ。溺れてしまいそうな思考の中で懸命に考える。
 浴場で野薔薇ちゃんに、わたしの身体の一部分が桃みたいだと声をかけられ、家入さんに見つめられる中、真希ちゃんにぷっくりしているそこを好き放題弄ばれて、恥ずかしくて惨めだった。それなのに快感には抗えず、正直に感じてしまったことを泣きながら説明すると、わたしは乙骨くんに腕を掴まれ、彼の部屋のベッドに押し倒されてしまった。
 そうだ、乙骨くんにとってわたしが誰かに触れられることは異性じゃなくても許せないことなんだ。乙骨憂太という存在以外に触れられることがこんなにも彼の中の雄を掻き乱し、際立たせる。

 「僕以外に触られるの、気持ちよかったんでしょう?」

 言いながら噛みつくように唇を塞がれた。けれどすぐに離れてしまい、絡められると思っていたわたしの舌が行き場をなくす。お預けされたことに泣きそうになるわたしに乙骨くんは口元だけで笑うと、べえとわたしの唇の前に舌を出した。お前から絡ませろ、そう言っているみたいに。恥ずかしくて仕方が無いのに、目の前で妖艶に誘う乙骨くんの舌を見せつけられて必死になって唇で挟んで吸い上げる。じゅぷ、じゅぽと乙骨くんがわざと窄めた舌を音を立てて咥えこむ。フェラみたいですねと冷たく笑われても構うことなく、何度も何度も彼の舌を出し入れして扱く。彼が舌を引っ込めると、お互いの唾液でぬめる唇がぬらぬらと暗い室内で光った。

 「ふ、ぁ、はぁっ、はぁ……」
 「…は、…ねえ、さんのどこが桃みたいなんですか?」

 ここですか?首元をちゅ、とやさしく吸い上げられながら今度は胸の先端を指で強く摘ままれる。ぎゅっと引っ張られ弄ばれて、そこに神経が集中してどうしようもなくなる。乙骨くんの唇が肌をなぞるように下方へと移動しながら、弄ばれていた先端とその膨らみにかぷりと吸い付いた。口の中でコリコリと転がされるのがわかって、ふあ、と思わず息を漏らしてしまう。けれど乙骨くんは動きを止めることはなく、反対側の頂を指でピンとつついたり弾いたりしながら楽しそうにいじくる。
 右の胸にかけていた指が焦らすような手つきでゆっくりとお腹の辺りを通過していく。胸の先端をはむはむと楽しんでいた彼の唇が一旦離れ、耳たぶを甘く噛まれた。

 「教えてください。…ここ?」
 「あ!ぅっ、んんっ、やっ、ぁあん!」
 「ぷっくりってどこを触られたんですか?」

 どんな風に。乙骨くんが吐息交じりに耳元で囁く。低い声音が腰に響き、身が捩れた。鼓膜に直に響く舌使いと水音に翻弄されていると、気付けば乙骨くんの大きな手はわたしの中心へと辿り着いていた。花芽を擦るように指を動かす乙骨くんの腕に手をかけてその動きを止めさせようとしても、非力な自分が適うはずもない。

 「ひっ、やぁ、あぁあ、ん──〜〜っ!!!」

 むしろ快感が近いことを自ら教えてしまい見逃してもらえるわけもなかった。激しくなった彼の指の動きにわたしは為す術もなく達してしまう。ぞわりと、今までとは比べ物にならない刺激が襲う。はぁはぁと息も絶え絶えなわたしに乙骨くんは満足気だ。彼はそのことを充分に分かっていた。それを承知で執拗に攻め立ててくる。

 「あぁ、っあ……!」
 「ねえ答えてくださいよさん」
 「ま!っ…て、ふあっ…いまっ、ぃっ、た、ばっかぁ…んんッ!!」
 「それともここですか?」

 そのまま耳の輪郭を舌で舐め上げられて下着をずらされると、すでにぐしょぐしょになった秘部に長く骨ばった乙骨くんの指がぬっぷりと沈められていく。じゅぷじゅぷとわざといやらしい音を鳴らして抜き差しを繰り返されながら、再び迎えそうな絶頂の兆しに瞼の裏がちかちかするほど強く目を瞑って耐えようとした。しかし、快感は絶えることなくひたすらに与え続けられる。

 「ほら、…ぐっしょぐしょ」
 「や!あっ、ダメ、そこダメぇ……っ!」
 「我慢なんか、できないのに…耐えなきゃいけなくて、苦しいですねえ」
 「ひぐっ、い、いじわる、いわな、っ…で…ぁあんっ」
 「…"ごめんなさい"は?」
 「ごっ!ごべ、な、さ…っ、!ごめ、っ、な……ふあ、ぁ───〜ッ!!!」
 「…っ、は…言いなりでかわいい」

 でも許しません。そう言って小さく笑うと、乙骨くんは沈める指の本数を増やしてさらに深く差し込む。何に対して謝らされたのかもわからず、最早そんなことを考える余裕さえもなく、言われるがまま乙骨くんに従うことしかできない。ビクビクと緩やかで長い痙攣が続き、その様子を乙骨くんに見下ろされている。そう思っただけで脳みそが痺れてしまう。
 乙骨くんは着ていたスウェットを脱ぎ捨て自身の高ぶりを取り出すと、ぐちょぐちょに解されたわたしの入口に自身の先端を擦りつける。ぬるりと大量の蜜が滑り、早くいれてとわたしから懇願しているみたいで羞恥心を掻き立てられた。

 「ん…っとに、えっち、です…」
 「うぐぅ…っ、はっ、やぁ…、言わな、で…!んんっ」

 力強い彼の手がわたしを四つん這いにさせて、乙骨くんの高ぶりが割れ目を沿うように全体にぬめりを塗りつける。焦らされているような動きに腰がカクカク動いてしまう。それが乙骨くんの雄をかえって刺激するような行動に思えた。くい、と先端がひだに引っかかり、ぐぽぐぽと浅く出し入れされ、自分のそこがみっともなくうねるのがわかる。はやく奥まで貫いてほしい。

 「…、さん…こうされるの、っ、好きですもんね…」
 「しゅ、きっ、しゅ!きぃ…っ、ぁあっ!!」

 なんの前触れもなくずぷりと先端が押し込められ、その圧迫感に思わず声が漏れてしまった。待ちに待った乙骨くんの剛直が泥濘をずぷずぷと掻き分けて、先端の張り出した部分がぐいと中を押し広げていく。仰け反る背中に乙骨くんが覆い被さる。顎に乙骨くんの大きな手が添えられると、上を向かされ、右側に顔を向けさせられて、唇の端からだらしなく滴る唾液をべろりと彼の舌に舐め上げられた。

 「んう!ふっ、んんっ、……く!はあっ」
 「っ、…は、…さ、…んっ」
 「ぁあ!!んっ、ダメ、だめっ!もう…らめ、ああぁっ…!」

 一度名前を呼んで、乙骨くんは上半身を起こすとわたしの腰を強く引き寄せて掴んだ。容赦なく出し入れを繰り返し卑猥な音を立てて腰を押し付けると、そのままそこで奥を抉るように回し込む。息を飲むほど気持ちが良くて、硬い先端でグリグリされて乙骨くんの昂ぶりをぎゅうぎゅうと締め上げてしまう。空いている右手で剥き出しの肉芽を擦りあげられながら、だらしなく蜜をこぼす熱い秘部に何度も何度も、欲望を打ち込まれていった。

 「っ……、家入さんに…っ、見られながら…」
 「はっ、ぁぁっ!、や…っ」
 「釘崎さんに、……言葉責めされて…っ」
 「あっ、ひ、いっ、…んん!んっ!!」
 「…っ……真希さんに、指でイかされ、て…」
 「あ!ぅっ、んんっ、やだ、や…!ぃ、ぁあん」
 「僕、に…後ろから、は、…たくさん、突かれて……」

 尻たぶを形が歪むほど鷲掴みにされ左右に開かれる。乙骨くんの角度から丸見えの痴態を思うだけで恥ずかしい。けれどもっともっと乱暴にしてほしくてただ喘ぐことしかできない自分に涙が頬を伝う。暴力的なくらい肉棒を出し入れされるのにどこにも逃げ場がない。

 「みんなに意地悪されて…っ、悔しいね?」
 「そ、な…あっ、こと、…っ、んっ!言わな、で……ああぁっ!」

 かわいそうでかわいくて大好きですよ。乙骨くんの低い声に聴覚を犯されて、馬鹿みたいに何度もイってしまう。果てる瞬間は快楽の渦にただひたすら一直線に落ちていくようだった。





うつろいの白桃



(本当は、はじめから全部僕が仕掛けたことって知ったら、さん、どんな顔してくれるんだろう。)