『俺が描くさんの絵は、放課後に別枠ちょうだい』


 お昼ごはんが全く喉を通らなかった。
 授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った後、自分が一体どんな行動をとっていたのかぼんやりしている。放課後、奥のデッサン室集合な。校内の喧騒は遠くに聞こえ、自分だけが異世界への切符を手渡されたような気分だった。
 デッサン室は、美術準備室と半分ずつ仕切られた長方形の狭い部屋だ。準備室側にしか扉はなく、通常の教室のように廊下からは中に人がいることが確認できない。本当に五条くんがいるのか疑心暗鬼になりながら、デッサン室の扉に手をかける。

 「あ、来た」
 「五条くん…」

 本当にいたんだ。言いかけて言葉を飲み込む。西日が差す狭い空間の中、置かれた回転椅子の上に座る五条くんと目が合った。本当に、本気だったんだ。

 「ん?俺の顔になんか付いてる?」
 「あ、や、そうじゃなくて……本当だったんだって」
 「ほんとって?」
 「本当に、美術の授業の続きするんだなって」

 五条くんは頭に疑問符を浮かべている。伝えたじゃん、そう言いたげだ。わたしの思いは別だ。五条くんの綺麗さに比べて、わたしは、こんなに時間を割いて描き上げてもらうほどの器量良しではない。だから、改めて授業以外の時間で五条くんと面と向かうのは、大分照れ臭いことだ。

 「…美術の続きかどうかは置いといて」
 「え?」
 「今度は俺が、さんをじっくり観察する番」

 くるくると五条くんの長い指の間をクロッキー用の木炭が回転する。触れた箇所から黒く汚れていくのがわかった。







 「…んっ」

 右手に細い棒状の木炭。左手の冷たい指はわたしの輪郭をなぞる。五条くんはスケッチブックに何かを描き込んで、またしばらくすると今度は右耳にその指を滑らせていく。さわさわと掠める程度の微弱な力加減にびくりと肩を竦めてしまう。

 「動くなって」
 「ご、ごめ…」

 ふっと口角を上げながら五条くんの指は止まらない。わたしじゃなくて、五条くんの手つきが…。最初は縁取るように。次は中指だけで耳の裏を上下させて。かと思えば人差し指と親指が耳朶をやさしく摘まんで、すりすりと撫でる。動きによって変わる音と感触に神経が研ぎ澄まされていく。あまりの恥ずかしさに目を瞑り、唇を噛み締めて耐えるけど、五条くんの指は楽しむように首筋をなぞり上げた。

 「ぁ…!っ、ぅう…」
 「…敏感すぎだろ」
 「ん、っ…はぁ、…だ、って…っ」
 「かわいいよ。もっと見せて」

 スケッチブックに黒い線が追加されていく。さん付けが呼び捨てに変わり、近すぎない距離感があくまでここが校内であることを知らせていた。それが余計に現実を確信させて心臓が爆発しそうだった。いつもより低く掠れる彼の声が、わたしの聴覚までも犯していく。お互い制服姿であることも興奮材料に変わってしまう。もっとしたい。今すぐにでも逃げ出したいくらい頭はくらくらするのに、もっと五条くんに触れてほしい。

 「ん!?ぁっん、ん…!ごじょ、く…!」

 願った瞬間、触られていたのとは反対の左耳に熱を感じた。カタツムリ、ナメクジ、ウミウシ。ぬるりと湿る舌が耳の中を出入りしていくのがわかる。その間も五条くんの指が首元を行ったり来たりしながらわたしを追い詰めていく。…、そう吐息交じりに名前を呼ばれると、引き寄せるようにして優しく唇を塞がれた。ちゅ、と音を立て、唇の先で愛撫を繰り返す。五条くんがわたしの上唇を吸い下唇を挟むのと同じようにわたしも啄み返す。じわりと熱を持った下腹部に耐え切れなくなって、そっと自分の舌を五条くんの唇に差し込んでみる。

 「っ、…我慢、できないんだ?…かわい」
 「ふ、ぁ、んんっ、んむ…っ、はぁ…」

 五条くんは一瞬だけその綺麗な目を見開いたけど、すぐにわたしの舌に自分のを絡ませてくれる。尖らせた舌同士がちゅくちゅくと艶めかしい音を立て合うと、膝の裏に腕を差し込まれ、重力を感じていたわたしの体が宙に浮くのがわかった。五条くんがいとも簡単にわたしを抱き抱えながら並べられた机の上に移動させる。
 細身でスタイルが良いだけじゃない。五条くんとわたしにはこんなにも体格差や体力差がある。圧倒的な力の差を思い知らされたようで、わたしは屈辱的な気持ちが沸き上がる。同時に支配されたい欲が溢れて、自身の秘部がじんわり湿り気を帯びるのがわかった。逆らえない。やろうと思えばわたしを殺すことも容易い彼の、優しい手つきがいとおしい。

 「…足、開いて」

 机の淵に座らされ、目の前にいる五条くんが足をM字に開脚しろと指示を出した。はぁはぁと呼吸を整えながら、いやらしい命令にドクリと大きく脈打つのがわかる。これは美術の授業の一環なんだから。そう自分に強く言い聞かせても、大好きなその目に見つめられるだけで羞恥の方が先に立つ。すると、しびれを切らしたように五条くんが無理やりわたしの膝を立たせて、足を広げてしまう。バランスを崩しながら何とか後ろに手をついたけれど、彼の顔は見れなかった。白ソックスの間から薄い白の下着が見えてしまっているのが、触れた空気の冷たさでわかる。

 「…へー…、えっろ」
 「!そ、そんなこと…言わない、で……」

 誘ってんの?言いながら五条くんの指に顎を持ち上げられると、再び左耳の中を熱い舌でびちょびちょに犯していく。こんな恥ずかしい格好誰にも見られたくないのに。あなたのためにしていることなのに。言いたくても耳元で感じる快感のせいで言葉にならない声ばかり口をついて出ていった。ぴちゃと音を立てて耳から唇を離しながら、ふうと息かけられる。吐息に触れた水分が冷たくて思わず身震いしてしまう。
 五条くんは満足そうな顔で、今度はわたしの前に机と椅子を適当に引っ張り、そこにスケッチブックを置いた。頬杖をつきながら正面からわたしを見据えている。スケッチブックに描き込んでは、じっと見つめられるを繰り返されて、恥ずかしさで死んでしまいそうだった。

 「その視線を逸らす感じ、たまんないんだけど」
 「ひっ、ぁ…!?」

 まるで五条くんが部屋で一人呟いた声を聞いてしまったような気になって、同学年の男の子の見えない部分を目の当たりにしているみたいだ。
 不意に何かが下着の上をなぞっていく。ビクンと腰が浮いて確かめると、五条くんのクロッキー用の木炭だった。そろそろと中心を上下したり、花芽をツンと突かれる。その刺激に足を閉じようとすると、椅子から立ち上がった五条くんに見下ろされ、そっと両足を割り開かれた。

 「はっ、下、着っ、汚れちゃ、ぁ、や…っ」
 「のことたくさん汚したい」

 五条くんはその場に跪くようにしゃがむと、下着の上から閉じた花襞とその上の隠れた秘芽を舌で優しく擦りだした。ちゅるちゅると吸い付き薄くて形の良い唇で擦り合わせられ、目の奥に衝撃が走る。きっと木炭で黒ずんだ部分が水分を含んで下着に薄い染みを作ってしまっているだろう。けれど、抗うことも出来ずにビクビクと太腿を震わせて思わず絶頂に達してしまう。

 「なぁ、まだ直接触ってないよ?」
 「ふ、ぁ、はぁっ、はぁ……」

 そのまま舌をねっとりと割れ目に当て、下から上に向かって舐め上げられる。わたしの閉じていた秘部がぐちょりと悦びの涙を流してしまう。五条くんは意味を成さなくなった下着を横にずらし、舌先を尖らせてその小さな穴に差し入れた。うねりながら中に押し込まれていく感覚に、熱い溜息が漏れ出ていく。

 「や!っ、まっ、て!ふ、うっ、…そこ、ダメぇっ!」
 「勝手にイクなよ。我慢しろ」

 突然浴びせられた強い言葉に、ぞくぞくと快感が駆け上る。ひとしきり入口を味わった後、五条くんは再びぷっくりと膨れた肉芯に舌を絡め、指を1本そこに埋めていく。わざと音を立ててかき混ぜながら、手のひらを上にして、指の腹で規則的に天井を押し上げるように動かされると、途端にわたしの体が仰け反った。逃れられない強い刺激に透明な飛沫が溢れ出る。

 「ふあ、ぁ───〜ッ!!」
 「ダメだって。スケッチブック濡れたらどうすんだよ。止めて早く、ほら」
 「止め、らな…っ!はぁ、ぁっ、ぐしょぐしょ、止めら、な──!」
 「はは。止めらんないの?ねえ。気持ちくて止まんないの?」
 「んんっ、むりっ、気持ち、い…っ!止ま、な…、いっぱ、っ出ちゃうぅっ」
 「ウケる。あーあヤラしい」

 変態だねえ?卑しめるその口角さえ綺麗だった。止めたくても五条くんの指がくちゅくちゅして止まってくれないだけのに。言葉とは裏腹の意地悪に涙目で睨む。抵抗したいのに正直な体からはどぷりと快楽の塊が溢れ出て、五条くんが嬉しそうにそれを中指に絡めながら指の本数を増やしていく。同時に、主張してしまう秘芽をくるくると舌で苛められ、机の上も下も見られたくないくらいびしょびしょになった。

 「あ!ぅっ、んんっ、やだ、や…!」
 「…イけよ」

 色のある声音が腰に響いた。中にある五条くんの指を締め付けながらビクビクと体を痙攣させてわたしは再び達してしまう。五条くんはびしょびしょに濡れてしまった片手を引き抜き、顔を離すと、片手で制服のベルトを緩めズボンと下着を同時に少しだけ下げた。引くつくわたしの中心に向かって己の腰を容赦なく押し進めていく。

 「あ、ま、待、っ…やぁあっ……!?」

 けれど、すぐにそれは引き抜かれ、先端部分だけで入口をぐぽぐぽ抜き差しされる。途端にお預け状態になったわたしのそこは、寂しさからきゅっとその先っぽを締め付けてしまう。物足りないと催促している。五条くんの言うとおり変態になってしまった気がして、そんな自分に悔しくなる。

 「うう…っ、ご、五条、くん……」
 「は、…欲しくてたまんないって顔」
 「うん、っ、ん……ほしい、ほし…!」
 「…お口にくださいは?」
 「はぅ、ん…っ、くだしゃ…、わたしの、おくちに…」
 「ん…咥えて…」

 机の上で四つん這いになり、そっと五条くんの剛直を手で握り先端に舌を這わせた。嗅いだことのない男の人に匂い。嗅覚も五条くんでいっぱいに満たされていく。五条くんの炭で汚れた指に鼻を摘ままれて、息のしづらさから大きく口を開くと、見計らったように先走りを零す昂ぶりがさらに奥へと入っていく。は、と短い息遣いと共に、大きな彼の手のひらが頭に触れた。

 「も、っと…奥……手も使って、」
 「…んっ、むぐ…ぅ、…っむ…」
 「…あー、…っ、ヤバい…、すげえかわいい…」

 艶かしい五条くんの喘ぎ声が、わたしの脳内を痺れさせる。気持ち良さそうに目を細め、こちらを見下ろしている。時折もどかしそうに髪の毛をきゅっと絡めるのが綺麗でもあり、可愛くもある。

 「は…、…いい眺め」
 「んむっ、!?んん…っ!」

 わたしの背中にぞわりと何かが走る。予期せぬ快感に五条くんの昂ぶりに歯を立てないか心配になった。覆いかぶさるようにして、五条くんが木炭でわたしの背中に文字を書いている。

 「授業中…、ずっと、っ…にこうしたかった…」

 切な気でいて達成できたような声で五条くんが呟く。ずっとこうしたかった。美術のクロッキーの授業中、五条くんの中でわたしはこんな姿にされて、こんな風に汚されていた。恥ずかしくて、いとしくて、嬉しくて、屈辱的だ。五条くんが木炭で汚れているだろうわたしの背中をいとおしそうに撫でる。
 五条くんの剛直を口に含みながら視線だけで彼を見つめる。休まないで動かせよ。催促の声に頷き従って、大きくて入り切らない部分は唾液を絡めながら指を使って扱いた。舌を裏の部分に這わせて吸い上げながら、顔を上下に動かす。ぐ、と五条くんの形の良い眉根が切なげに寄った。じゅぷ、じゅぷ、とそこから濡れた音を響かせていると、わたしの髪に絡まる指が奥まで差し込まれ、ぐい、と力強く押し付けられる。硬度を増した五条くんの昂ぶりが、喉の奥の奥まで押し込まれ、息が詰まる。視線を上げれば、目を閉じ肩で息をしている彼の姿があった。

 「は、…っやば…、危な……」
 「ぷは、…はっ、ん……はぁ……も、と…」
 「え?」
 「もっと、…っ、五条くんに、…汚されたい……」

 真顔のまま、五条くんがわたしを組み敷いた。五条くんは制服の前をすべて肌蹴させ、わたしは五条くんによってほとんど服の意味を持たない格好にさせられ、接合部からは卑猥な水音が響く。片足を持ち上げられ肩に担ぎあげると、五条くんの昂ぶりがさらに挿入を深くした。硬い先端でぐいぐいと持ち上げるように突き上げる動きにひゅ、と喉が鳴る。肩に担いだ左足の腿に温かい舌がぬるりと這って、空いている右手で剥き出しの肉芽を擦られながら、だらしなく蜜をこぼす熱い秘部に何度も何度も欲望を打ち込まれていく。

 「はぁ、…くっ、…責任、取らせる、から、…な…っ」
 「や、や、っもぉっ…イっく…!…ご、じょ、く!」
 「んっ、…俺ので、また、…っ、イケ…」
 「またっ、五条、っ、…くんの、で…っ、はっ、イっちゃ…んん───〜ッ!!!」

 半開きの口から溶けたような名前を呼ぶ。奥深くを突かれ、ぶるりと体全体が震えるのがわかった。
 わたしが達するのを見届けると、五条くんはわたしの両足を持ち上げ、胸の方へ折りたたむ。すると、上からのしかかる様に激しい抽送を開始する。腰とお尻が持ち上がり、ぼやける視界に彼の濡れた剛直が勢いよくそこを出入りしている様が映った。

 「あぁ、あっ、んんっ、しゅ、き…っ、ふ、ぁあ───〜ッ!!!!!」
 「は、っ……く、っ……俺もすき、…っ…、出すぞ…っ」

 ぐり、と腰を押し付けられた瞬間、脳天まで電流が駆け抜ける。同時にびゅるるっと奥深くに大量の白濁を流し込まれた。五条くんは一滴も溢れないよう、全てを吐き出すかのようにわたしの腰を持ち上げながら自身の腰を揺すった。そうして名残惜しそうに、いつまでもわたしの中に自身を埋め込んでいた。





愛を宿すための余白


 (一部だけじゃなくて、俺の全部を攫ってほしい。)